工学部長・研究科長挨拶

名古屋大学
工学部長・工学研究科長

小橋 眞

 名古屋大学工学部の歴史は、1942年に名古屋大学理工学部が工学部と理学部の二学部に生まれ変わったときから始まりました。その時から、時代の変化と社会の要請に対応して、私たちは変化と成長を続け、現在の工学部は7学科・大学院工学研究科は18専攻で構成され、教職員数766名、学部学生数2,952名、大学院学生数1,794名(2023年5月1日現在)と名古屋大学で最も大きな部局(組織)として、高いプレゼンスを誇っています。

 「工学」は、数学や科学的知見を駆使して様々な課題を解決し、社会に貢献するために体系化された学問分野です。工学部・工学研究科は教育・研究・学協会等の社会活動を通じて、社会に貢献することが大きなミッションです。現在、私たちを取り巻く社会には様々な問題が顕在化しています。地球温暖化、環境汚染、エネルギー不足、労働力人口減少、自然災害、パンデミックなどなど多種多様です。工学は、これらの問題から取り組むべき課題を見出し、それを解決するための道筋を示し、社会の幸せを目指さなければなりません。力強い産業基盤を持つ愛知県・東海地方には、工学が取り組むべき社会課題が山積しています。名古屋大学は、この地域の中核大学であるとともに、日本の中核大学の一つでもあります。名古屋大学工学部・工学研究科は社会の課題に対処するために、これまでに人材育成、研究力の強化、社会貢献に注力してまいりました。私たちは、この取り組みを継続し、変化の激しい社会の中で、私たちが豊かで幸せに暮らし続けることができるように様々な取り組みを行っています。ここからは、名古屋大学工学部・工学研究科の重点的な取り組みのいくつかをご紹介します。

名古屋大学工学部・工学研究科の教育

 私たちは、学部・大学院を一体としたシームレスな教育体制を構築し、基礎教育3年、専門教育3年(学部4年+博士前期課程2年)、高度専門教育3年(博士後期課程3年)の【3+3+3型教育システム】を実施し、適切な年次で専門分野を選択する Late specialization(入学時ではなく3年次終了時点での専門分野選択)に対応する教育システムを提供しています。
 さらに、編入学者、修士課程・博士課程からの入学者、社会人ドクターとしての入学者、英語を母国語とする入学者に向けた多様なプログラムを用意しています。例えば、社会人ドクターについては、長期履修制度(3年間の学費で最長6年間在籍できる制度)を設け、さらに様々な「総合工学科目」を設置し、広範な実学を学ぶ機会を提供するなど、学びやすさと魅力的な教育に向けた創意工夫を行っています。
 大学院前期課程(修士)、後期課程(博士)では、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構など国立研究機関との連携大学院協定を結んでいます。この制度を利用して多くの修士課程、博士課程学生が給与を得ながら、名古屋大学と国立研究機関で研究を実施しています。その他、ジョイントディグリープログラム、卓越大学院プログラム、G30など多彩な教育プログラムを活用し、グローバルに活躍できる高度工学系人材を育成するための環境が整っています。

名古屋大学工学部・工学研究科の研究

 工学研究科には、名古屋大学初となる2名の卓越教授が率いる研究室があります。2014年ノーベル物理学賞を受賞された天野 浩教授(電子工学専攻)、ナノ空間構造物質の開発で世界でも群を抜く業績をあげている山内悠輔教授(物質プロセス工学専攻)の研究室です。工学部・工学研究科には7つの学科・18の専攻があります。これらの学科・専攻は独立して教育を行っていますが、研究活動は活発な横展開が広がっています。非常に複雑で答えを見出すことが難しい社会課題を解決する上では、連携と水平展開が非常に重要になっています。工学研究科は、附属フライト総合工学教育研究センター、附属クリスタルエンジニアリング研究センターという二つの附属センターを擁します。これらのセンターには学科・専攻の枠を超えた人材が目的を同じくして集まり、融合的な研究と教育を実施しています。特に産業の集積地である愛知県に立地するという好条件を生かし、多くの産学連携、国際連携による研究開発が工学研究科の教員を中心にして進められ、皆さまの生活が、より豊かで持続可能であることへの貢献につながっています。

名古屋大学工学部・工学研究科のダイバーシティ推進

 私たちはダイバーシティを推進することは大変重要と考えています。今、顕在化している問題の一つは、全国的に工学部は女子生徒の志願者数が少ないことです。OECDによる2021年の調査では、加盟38か国の中で日本は工学分野に進学する女子学生の比率が最下位でした。そこには、複数の要因があると思いますが、一つの単純な理由として、工学部は男性社会という昔からの無自覚な意識が働いていると考えています。私たちは、これを甘んじて受け入れてしまい、潜在的に非常に優秀な人材(高い適性を持ちながら、それに気付いていない人材)の確保をあきらめることはできません。名古屋大学工学部では2023年度入学者から推薦入試女子枠を2学科で実施し、2025年度入学入試からは4学科に拡張します。工学部への男女志願者数がアンバランスな現状を改善し、正常なバランスをもたらすための契機をもたらすことを期待しています。これまでの実施では、大変優秀な志願者が合格し、ダイバーシティ促進に向かって、確かな第一歩を踏み出しました。バランスのとれた望ましい工学部・工学研究科が常態化するまで、ダイバーシティ推進活動は続けていかなければなりません。

国際交流

 工学研究科には、独立した組織である国際交流室があり、4名の専任教員、2名の事務スタッフが勤務しています。国際交流室では留学生支援、日本人学生の留学支援、英語教育などの国際交流の円滑な運営のための充実したサポートを実施しています。また、政府機関による国際交流・国際学術連携プロジェクトを実施しています。COVID-19による渡航制御や隔離措置が撤廃され、工学部・工学研究科の国際交流はますます活発になっています。シンガポール国立大学(シンガポール)、クイーンズランド大学(豪州)、ノースカロライナ州立大学(アメリカ)、チュラロンコン大学(タイ)などをはじめとする戦略的パートナー大学とのハイレベルな連携や交流も推進しています。

 名古屋大学工学部・工学研究科は、これからも、現代社会で直面する諸問題に果敢に挑戦し、グローバルなリーダーとして活躍できる人材を輩出するとともに、高い研究成果を生み出すことを通じて社会に貢献し続けたいと考えています。